就職氷河期の実態とは?

2018-09-02

近年日本の就職市場が活況を呈しています。

2018年2月のNHKのニュースでは次のようにその状況が描写されています。

 

来年春に卒業する大学生を対象にした企業の会社説明会が3月1日に解禁され、ことしの就職活動が本格的にスタートします。かつて「氷河期」と言われた就職戦線は大きく様変わりし、ここ数年は深刻な人手不足を背景に学生優位の「超売り手市場」が続いています。(NHK NWES WEB、2018年2月28日「いつまで続く? 超売り手市場」)

 

このような売り手市場が最近のトレンドですが、これまで一貫してこうした状況が続いてきたわけではありませんでした。

上の記事の中にも出てくる「就職氷河期」とはどのような時代だったのでしょうか。

これを探究することをテーマに、労働経済、社会学等の観点から卒論を執筆することも可能です。

第一次就職氷河期

就職氷河期は大きく第一次と第二次の二回があったと考えられています。

第一次に関しては、太田ほか(2007)で以下のように説明されています。

 

2000 年代半ば以降、景気回復により若年の雇用状況に改善傾向が見られる。一方、 1990 年代から2000 年代前半の経済停滞期に学校を卒業した世代には、2000 年代半ば以降もなお、不安定雇用もしくは無業を続けている場合も少なくない

 

ただし、このような理解は必ずしも全ての研究者の同意を得ているわけではないようです。

その一例として、海老原(2009)は生産年齢人口当たりの正社員比率の推移という観点から別の見解を示しています。

それによれば、1990年代前半から半ばにかけて正社員比率が高いことは事実であるものの、1990年代末から2000年代前半にかけての正社員比率は1980年代よりも高いことが論証されています。

これが意味するところは、第一次就職氷河期に正社員比率が低下したことは確かであるものの、2000年代になってからの数値が極端に低い水準であるというよりも、相対的な数値の悪化が注目を集めたと考えるのが適当でしょう。

また太田(2010)でも、非正規社員数の増加と同時に正社員数も増加していることが明らかにされています。

このように多面的な研究成果を参照すると、通俗的な理解を超えて事象を把握することが可能になります。

第二次就職氷河期

第二次就職氷河期の大きな原因として挙げられるのが、2008年のリーマンショックです。

これに伴って経済状況の悪化し、その結果大学生等の就職環境が難しいものとなっていることが指摘されています。

2012年にはフリーターが180万人、NEET 状態の若年者が60万人とされています。

リーマンショック以降の大学生の求人倍率が低下していることも中野ほか(2013)で示されており、2008年から2013年にかけて全企業ベースで約2.14倍から1.27倍まで低下したとされています。

その結果として、2008年を境として就職率が低下していきました。

ただし、このような不況時にこそ新卒採用を強化するべきだという意見があるのも事実です。

例えば、永野(2012)では、「不況の今こそ、採用のチャンスである」という考えを支持する企業が多く存在することが明らかにされています。

以上のように、「就職氷河期」という一つの言葉からでも様々な論点が浮上してきます。

その中で興味を持った点を掘り下げることで、自分オリジナルの卒論へと近づけることができます。

 

おすすめ参考文献

NHK NWES WEB、2018年2月28日「いつまで続く? 超売り手市場」

https://www3.nhk.or.jp/news/business_tokushu/2018_0228.html

太田聰一・玄田有史・近藤絢子、2007年「溶けない氷河:世代効果の展望」『日本労働研究雑誌』49(12)

海老原嗣生、2009年『雇用の常識「本当に見えるウソ」』プレジデント社

太田聰一、2010年「就職氷河期における雇用と賃金の変化」『Keio Economic Society discussion paper series』10(13)

中野貴之・菅原奈々・中里勇介・三橋裕希、2013年「企業の採用活動に関する実証分析 ―就職氷河期の大卒就職の実態に迫る―」『生涯学習とキャリアデザイン』10

永野仁、2012年「企業の人材採用の動向:リーマンショック後を中心に」『日本労働研究雑誌』54

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