県民性を研究テーマにした卒論の着眼点

2018-09-06

都道府県ごとの特徴はよく話題の種になりますが、それを学術的に扱うことは可能でしょうか。大学に入ると、様々な出身地の方と知り合った経験もみなさんあるでしょう。

そこで今日は、そのような身近な経験をきっかけとしたテーマで卒論を書くときの着眼点をご紹介します。

 

日本における地域性の記録

行政区分を枠組みとするような地誌的考察は古代から行われてきています。

その代表的事例が風土記の編纂です。

風土記は日本最古の地誌ないし地理書として奈良時代ならびに平安時代初期に編纂されました。

その目的は、石田(1966)によれば自民族の由来に関する時間的認識から歴史的知識を、空間的認識から地理的知識をもつに至るという前提に立ち、風土記の地理・歴史の記述を通じて法制を整備し、天皇が国土・国家を統治するという意識を明らかなものとする意図があったとされています。

このような地誌の編纂はその後長らく行われませんでしたが、江戸時代になると全国各藩の地誌が編まれるようになりました。

江戸時代の各藩地誌は領国意識によって編述されており、それは内容目次にも表れています。

そこでは、建置沿革、統治者年表、戦記などがかなりの部分を占めており、全国におよぶような視点ではなく各藩内の出来事を詳細に記述するという方針が採用されていました。

これは各藩割拠の時代を反映しており、現在の都道府県別の県民意識に通じる地理的・文化的帰属を強化する働きがあったと推測できます。

日本列島は地理的特徴から周囲を海に囲まれると同時に険しい山と川によって各地域が隔てられることで、盆地ごとの小さな地域社会の連合体が形成され、各地域に個性豊かな文化が生み出されてきました。

近現代においては道路・交通網の整備が進んだことで県境を越えての人々の移動は日常化してきており、このように均一化が進む時代に行政区分で地域性を見るのは不適切であると考えることもできるかもしれません。

しかし同時に、律令の時代から歴史が育んできたお国柄、特有の気質といった地域性は現在にも引き継がれていると見ることもできます。

また、同じ地域の中で生活することから「文化を共有」し、生活習慣や嗜好といったものにも一定の傾向や共通性が見られるでしょう。

以上のような理由を踏まえると、人それぞれが生活し仕事を営んでいる行政域単位で地域性を探り、その変化の方向を観察していくことは、時代の動きを見据えていく上で意義のあるものだと考えることができます。

地域内の人口移動

次に九州地方を題材として地域内の人口移動と地域性の関係について考えてみます。

九州内の人口移動は歴史的要因に規定される部分があると同時に、高速道路をはじめとする交通インフラの整備や通信技術の発展によって規定される部分も大きくなっています。

歴史的要因の一例としては、人口移動における鹿児島と宮崎の結びつきが宮崎の南西部に位置する中心都市の都城が江戸時代には薩摩藩の領内であったことに起因することが挙げられます。

また、近年においては福岡を中心とした経済や社会、文化などの地域的結合性が強化されつつあります(石黒、2007)。

このように、九州という地域の特徴を把握するのには地域の歴史性と相互関連性を重視する視点が必要となります。

石黒(2007)は『住民基本台帳人口移動報告年報』をもとにした分析を行っています。

それによると、1955年の九州においては各県からの第1位転出先は、鹿児島からの転出先が大阪であることを除いて、佐賀・長崎・熊本・大分の4県では福岡でとなっていました。

これは、当時の九州において石炭産業と鉄鋼業の発展によって戦後復興を支えてきた福岡への集中傾向が見られており、人口移動がおもに九州内で完結していたことを示しています。

しかし、1960年代の高度経済成長期には、九州各県の若年労働力人口は東京・大阪・名古屋の三大都市圈への流出傾向を強めていきました。

九州の中心である福岡では、九州各県からの転入量を上回る転出量が大阪をはじめとする大都市圈に流出するようになっており、人口移動からみた地域の結合性は減退していきました。

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おすすめ参考文献

石黒正紀、2007年「九州のとらえ方」『地理』52(2)

石田竜次郎、1966年「日本における地誌の伝統とその思想的背景」『地理学評論』39(6)

小林隆一、2008年「九州地方の県民性」『地域総合研究』35(2)

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