読書レポートの書き方~②考察

2018-08-07

前回に引き続き、読書レポートの書き方についてご紹介します。

小松美彦『脳死・臓器移植の本当の話』(2004年、PHP研究所)を題材に、今回は考察部分を扱います。

 

考察

○考察1-本書の意義

本書のもつ大きな意義はそれまでの脳死・臓器移植問題に関する議論が見落としていた重要な点をいくつも指摘した点ある。

例えば、「脳死」という言葉の歴史や、「脳死=人の死」の図式など、改めて冷静に考えてみると根拠のないものが多く見つかる。それにもかかわらず従来はこれらは見落とされていたのである。

「脳死」という言葉の一例をとっても、この言葉がかつては「不可逆的昏睡」と呼ばれていて、それが意図的に「脳死」という言葉に置き換えられたということを知っている人はどれほどいるのだろうか。脳死・臓器移植の専門家なら知っている人も多いだろうが、一般の人々はほとんど知らなかっただろう。

著者は、脳死という言葉を用いた理由は「脳死=人の死」というイメージを植えつけるためだえろうと推測している。この推測の是非はわからないが、そのような意図が仮になかったとしても、結果として「脳死=人の死」の構図を人々に印象つける効果があったことは事実であろう。

 

○考察2-批判的検討

著者の主張は全編を通して一貫しており、非常に説得力がある。さらに、いわゆる「予想される反論」を自ら提示して、それを論破している点も、評論文の書き方に則っており説得力を増すのに役立っている。

普通にこの本を読めば、誰でも脳死・臓器移植に否定的な意見をもつようになるだろう。しかし、である。本当にそれで正しいのかという疑問を私は持った。小松さんは脳死・臓器移植問題を権力側の陰謀だと捉え、鮮やかにそれを解き明かしている。それはそれで読んでいて気持ちいいのだが、少々その鮮やか過ぎる手法が気になった。そこで、あえて批判的な見方での考察を試みる。

ここで取り上げたいのは、脳死判定基準や、国会で審議されていた臓器移植法改正案に対して批判を加える場面である。著者はこれらの問題点を次々に指摘し、それらを理論的に破っていく。その手つき非常に鮮やかで、読みながら文章に引き込まれそうになる。

このような強い語り口は、読者が自ら思考して判断することを抑制する効果を持ってしまっている部分がある。そのため、この本一冊を読んで判断するのではなく、反対の意見を持つ著者の本を併せて読んで、再考する必要があるだろう。

 

○考察3-自分の意見

私自身、本書を読みながら改めて脳死・臓器移植問題に対して自分の立場を考え直すことになった。最終的に私が出した結論は、自分自身が脳死状態になった場合には臓器摘出を許可するという立場を採ることである。

本書では脳死者が本当は死んでいない可能性があるという点を重視して脳死・臓器移植を批判的に検証してきた。しかし、これは臓器移植によって助かる命があるという点を見落としているのではないか、ということに気がついた。本書の中での臓器提供を受ける側にも触れてはいるが、そこに関してはそれほど説得的な議論がなされていない。

この点について改めて検討してみた結果、自分の臓器のおかげで助かる命に賭けてみてもよいのではないだろうかと考えるようになった。

 

おわりに

以上が読書レポートの書き方の例でした。

読書レポートでは著者の主張を整理するだけでなく、それに対して自身の考えを述べることが大切です。この際、著者に同意する場合も、反対する場合も、著者の主著に間違っている部分はないか検討するために、一旦反対の立場から考えてみることをお勧めします。

その結果、見落とされていた論点を見つけ、自分なりの考察を深めることができるようになります。

 

おすすめ参考文献

小松美彦、2004年『脳死・臓器移植の本当の話』PHP研究所

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