消滅都市(2)~日本の地域問題を卒論にするには?
前回は富士宮市の地域活性化の取り組みについて研究してきました。
富士宮市は組織的にB級グルメブームをリードすることで経済的成功を収めることができたのでした。
今回は屋久島についてです。
日本の世界遺産として知名度を高め、地域に活力をもたらした事例である屋久島を取り上げることで、地域活性化への方策に新たな視点が加わるでしょう。
まず、自然遺産が世界遺産になる条件を見ていきます。
①優れた自然美のある自然景観であること。
②地球の歴史の証拠となるような地形・地質であること。
③生物進化の見本となるような生態系であること。
④絶滅危倶種の生息地など保全上で重要な生物多様性であること。
これらの4つの内の一つ以上で普遍的価値があり、それを保護する制度が整っていることが条件となっています。
そして、これらの条件を満たすべく、国と地域をあげて積極的に世界遺産登録を推進し、観光資源として世界中から脚光を浴びている地域も多くなってきたと言われています。
(坂井 2008:64)。
屋久島は観光以外取り立てて目立つものがないですが、それでも非常に高い知名度を誇っているのは、やはり世界遺産に登録された効果が大きいようです。
そのため、屋久島の地域振興においては観光という手段が非常に大きな地位を占めていると考えられます。
屋久島の観光入込動向については、次のように論じられています。
屋久島の観光入込数は、その移動手段が船舶や飛行機に限定されるため、かなり精度の高い数値とみなされています。
世界遺産の指定とそれを引きおこしたエコツーリズムのブームなどにより、2002年には年間28万人を、そして現在は30万人を数えています。
また宿泊施設(ホテル、民宿・旅館)も離島統計年報によると、1990年の50軒から1999年の86軒に拡大しました。
民宿は1990年代に急増し、大型ホテルは外資(JR九州)が参入しています。
(下島・中崎 2012:18)。
世界遺産として名高い屋久島だが、知る人ぞ知る観光名所としての価値は十分昔からあったとは言えるでしょう。
B級グルメのような客を惹きつけるような料理がなくても、地域としての成長は可能だということです。
しかし、屋久島の場合、次のようにリスクも述べられています。
屋久島の観光は、1997年以前まで、登山によるものでした。
1993年に屋久島野外活動総合センター(YNAC)が設立され、エコツアー(森歩き、カヤッキング、沢登り、海・山・川の自然を紹介)を開始したことが屋久島エコツーリズムの発展に大きく寄与し、今エコツーリズムのトップブランドとなりました。
屋久島の観光は、山岳登山から世界道産の認定に起因するエコツーリズムまで、そのイメージや期待は自然生態を保全した観光としての展開でした。
しかし、別実の観光動向やその環境面の影響から多くの課題が生じています。
その一つは、来訪者が社会経済の動向に敏感に反応し、まだ贅沢で不要不急の観光活動はその効用が大きくなる半面、急速に低落を招きやすく、それだけ浮き沈みが大きくなるということです。
これに旅行情報や価値意識の変化、台風、噴火等の自然災害や経済社会不安などが加わるため、ビジネス旅行に比べて変動が大きくなり、その雇用や経済の低迷は地域の発展を阻害することにつながります。
二つ目の課題は、島の産業経済、人口動向、後継者の状況等に照らしてみると、現在の観光の存立が、地域主導というより、内実では観光事業の資金、人材、情報、企画運営等の多くを外部に依存していることにあります。
つまり、税金を投入し外部資本や人材を導入しても、その中で地元に還元される雇用や経済は小さく補助労働や調整雇用など従属的な内容となることが多いのです。
(下島・中崎 2012:24)。
屋久島は観光資源を自然に頼っているため、その維持管理には膨大な労力もかかります。
また、観光客が来るのを制限するのも難しいです。
地域の観光資源には様々なものがあり得るが、食べ物と違って、現地まで来なければいけない観光の場合、特に自然に頼っている場合、その自然が失われると魅力が一瞬でなくなってしまうリスクにさらされています。
このように、屋久島では世界遺産への登録を機に観光による地域振興が進められてきましたが、取り組み主体は島の外部の人や組織が中心となっており、地域としての主体性が確保されていないという問題が生じています。
また、自然資源に頼った活性化方法ではそれが失われたときに再度地域に打撃が与えられる可能性があります。
別の事例を考察することで、より良い解決の模索へとつながり、また論文内容の厚みが増します。
参考文献
坂井宏光 、2008、「日本の世界遺産における環境保全型観光産業の発展と課題 : 屋久島の世界自然遺産を中心として」教養研究 15(1)、p.63-79
下島康史・中崎茂、2012、「エコツーリズムの意義と持続性の条件:屋久島のエコツーリズムを事例に」桜美林論考. ビジネスマネジメントレビュー 3、p.15-27
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