消滅都市(1)~日本の地域問題を卒論にするには?

2017-06-19

「2040(平成52)年に若年女性の流出により全国の892市区町村が「消滅」の危機に直面する。」
有識者らでつくる政策発信組織「日本創成会議」の人口減少問題検討分科会(座長・増田寛也元総務相)が、2014年5月にこんな試算結果を発表しました。
分科会は地域崩壊や自治体運営が行き詰まる懸念があるとして、東京一極集中の是正や魅力ある地方の拠点都市づくりなどを提言しました。
東京と地方の格差や地域の問題は、卒論のテーマとしても人気なものの一つです。

こうした社会問題を解決するためには、具体的にどのようにしたらよいでしょうか。
消滅の危機からの脱却に成功した都市を詳しく研究することで策が見えてくるかもしれません。
そこで、今回は富士宮市の事例を見ていきましょう。

静岡県富士宮市は中心部に限れば産業も一定規模を保っており、町全体を取り巻く危機感が高かったわけではありません。
しかしながら、高齢化の波は継続的に押し寄せてきており、地域の活力が徐々に失われつつあるという状況にありました。
こうした状況の地域を再生するための一縷の望みとして、B級グルメ による地域活性化、地域おこしがここ数年ブームとなっています。
そして、そのB級グルメによる地域活性化の「成功事例」として第一に挙げられるのが、「富士宮やきそば」の街、静岡県富士宮市です。

静岡県富士宮市は、静岡県東部に位置する、人口約13万人の都市です。
北東には富士山が聳え、市の中心部にはその富士山が神体山として祀られる富士山本宮浅間大社が鎮座します。
富士宮市は古くから富士登山のゲートシティのひとつとして、または浅間大社の門前町として発展してきましたが、明治時代後期からは、富士山麓の湧水を活かした製紙・製糸工場が進出するようになり、1960年代に入ってからは、工業団地の建設や大手企業の進出が相次ぎ、工業都市としても発展してきました。
現在は、前述の浅間大社や朝霧高原など、富士山周辺の豊富な観光資源を有した観光都市として、年間600万人もの観光客が訪れています。
(佐野 2011:61,62)。

さて、富士宮市やB級グルメの焼きそばで人気になった点について掘り下げていきます。
富士宮市は前述の富士山や浅間大社の他、湧水に由来する白糸の滝や涌玉池(共に天然記念物)、富士山の著名なビューポイントである田貫湖、宿泊施設や体験牧場などのレジャー施設が数多くある朝霧高原など、自然資源が数多く存在し、市域の北部は富士箱根伊豆国立公園に指定されています。
また浅間大社にゆかりのある文化財や年中行事など、人文観光資源も少なくありません。
最近20年間の富士宮市への観光入込客の推移は、多少の波はありますが、全体的には増加傾向にあるといえます。
近年で人気を集めている「富士宮やきそば」については2004年より統計が開始されましたが、2009年においては約50万人もの集客を誇っています。
(佐野 2011:62)。

富士宮やきそばは、終戦直後、食品工業の創始者が中国から引き揚げて、現地で食べたビーフンの味が忘れられず再現しようとしたところから始まりました。
その後生み出されたのが現在の麺で作る焼きそばで、その頃、お好み焼き店や鉄板を備えた駄菓子店が多く開店し、この特有な焼きそばもこれらの店で提供されました。
製糸工場の女工たち、満州から復員した元兵士たちに受け入れられていました。
(安田 2011:189)

富士宮は、同業者団体ではない市民団体である「富士宮やきそば学会」が推進主体なり、2000年から地域ブランド作りを開始しています。
そこから毎年キャッチーなネーミングでイベントを執り行い、テレビなどメディアを使うことで、名前は広まっていきました。
2006年、第1回B-1グランプリ優勝、翌年第2回B-1グランプリにて2連覇し、全国的な知名度を獲得しました。
過去ゼロであった焼きそばを食べにくる観光客が70万人になり、地域ブランドの確立を実感し始めました。
間もなく、全国のB級グルメブームをリードする存在となりました。
静岡市のコンサルタント会社地域デザイン研究所の試算によると、富士宮やきそばの消費額は総額約250億円になり、麺や食材の売り上げ、さらにメディアへの露出を広告費に換算し、439億円の経済効果があったとしています。
(安田2011:191)

つまり、この事例は地域活性化に取り組むにあたって組織文化づくりに成功し、経済的成功を収めたと言えます。
身近な社会問題の解決方法を考えるにあたって、成功モデルを考察することは論文に生かすことができます。

参考文献
野瀬泰申、2008、「「B級グルメ」に突き進む地方都市」日経グローカル113、p.54-59
佐野浩祥、2011、「富士宮市におけるB級グルメによる中心市街地の活性化にむけた課題」立教大学観光学部紀要13、p.59-69
安田亘宏、2011、「B級グルメとツーリズムによる地域ブランド形成プロセスの考察-喜多方ラーメン・宇都宮餃子・富士宮やきそばを事例として-」地域活性研究(2011.2)、p.185-194

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