比較研究の着眼点~各国事例比較
以前の記事で、アメリカのトランプ政権の誕生を題材にしてポピュリズムの観点から卒論を書く方法についてのアドバイスをお伝えしました。
もちろんアメリカの事例だけでも卒論を書くことはできますが、議論を深め、その質を高めていくためには「比較」の視点が重要になります。そこで今回の記事では、「ポピュリズム」という観点で比較研究を行うにはどうしたらいいのかの例をご紹介します。
比較の軸を設定する
まず重要なのは、言葉の定義を明確化することです。今回扱うポピュリズムにしてもいくつかの定義があります。ここでは、山腰(2017)の次のような考え方を前提とすることにしましょう。
- 社会を二つの勢力に分断する
- 社会や政治が抱える問題が、一方の勢力に起因するものとして、善悪二元論の対立図式に位置づける
- 自らが一般民衆と共に敵対勢力と闘うという「勧善懲悪」の物語を提示し、現状に不満を抱く多様な層の支持を調達する
- メディアを積極的に活用する
このように定義すると、「分断」「善悪二元論」「勧善懲悪」「メディア活用」という4つの観点によってポピュリズムを定義づけることができます。
これによって、大体の卒論の構成も見えてきます。つまり、まずいくつかの事例を挙げながら先ほどの4つの観点に沿ってそれぞれの内容を整理していきます。その上で、それぞれの共通点と相違点を検討し、それらの相同がどのような背景から生まれたのかについて研究します。
ここまで議論を掘り下げることができれば、卒論として十分合格を貰える水準に達していることでしょう。
取り上げる事例を選定する
「比較の軸」の設定ができたら、次にどのような事例を検討対象にするかを決めます。ポピュリズムと関連して言及されることがあるのは、次のような政権や政治団体です。
アメリカ:トランプ政権
イタリア:五つ星運動
フランス:国民戦線
フィリピン:ドゥテルテ政権
これらの政権、政治団体がポピュリズムに該当するかどうかに関しては、一概に判断することはできません。そこで活用するのが、先ほど設定した「分断」「善悪二元論」「勧善懲悪」「メディア活用」という4つの比較の軸です。これら4項目について、取り上げる事例がどのように位置づけることができるかを検討し、記述することで、卒論のメインパートとなります。
共通点、相違点を整理することができたら、その背景を分析していきましょう。国ごとに選挙制度や政治の歴史が異なっています。そのため、一見すると一つとして同じ政治状況の国はないように思えます。しかし、ここでも先ほどの比較の軸と関連する内容に注目することで、国民の支持の集め方などの点で共通した背景が見出せるかもしれません。
このように自分が設定した論点に何度も立ち返ることで議論が拡散するのを防ぐことができます。特に比較研究では論点がバラバラになってしまいがちなので、注意するようにしましょう。
おわりに
海外の事例を取り上げるときに気になるのが、「外国語の論文を読まないといけないのか?」という問題です。もちろん外国語の文献まで読み込んで様々な国の比較ができるといいですが、そうでなくても大丈夫です。日本語の既存文献の内容を独自の観点によって整理し直し、新たな知見を得ることができれば十分に意義のある研究だということができます。
研究において大切なことは外国語能力ではなく、「これまでの研究にない新しい発見ができたか」ということです。これを満たすには、論点設定、なかでも比較の軸の設定が必要です。時間がない中で卒論を書こうとすると、どうしても先行研究を読み込むことが疎かになってしまいがちなので、早めに段取りを立て、丁寧に構成を組み立てられるようにしましょう。
おすすめ参考文献
水島次郎、2016年『ポピュリズムとは何か―民主主義の敵か、改革の希望か』中公新書
山腰修三、2017年「ポピュリズム政治における「民衆」と「大衆」-批判的コミュニケーション論からのアプローチ-」『メディア・コミュニケーション』67