都市計画を卒論で扱うには?~②展開
前回に引き続き、都市計画をテーマにした卒論の書き方をご紹介します。
横浜市の事例を題材として、東急電鉄との連携を経て街づくりがどのように展開していったかについて検討していきます。
街づくりの展開
○利便性の向上
横浜市と東急電鉄の協力によって田園都市線沿線の街が開発され、住宅地として売り出されました。このような経緯もあって、田園都市線沿線には人口規模に見合ったインフラが適切に整備されており、住民が比較的不自由なく生活できるようになりました。
田園都市線の開業当初は都心方面のアクセスが中心で、東京との強いつながりを持っていました。
しかし、1993年に横浜市営地下鉄(ブルーライン)が開通するなどして横浜都心へのアクセスの利便性も向上していきました。
○行政と民間の多面的な協力
ここまでは開業してから街が発展するまでの歴史について扱ってきました。
街に人が住み、時間が経つにつれて新しい課題も出てきます。大規模な人口を擁している街が今後直面することを避けられない課題は、居住者の高齢化や住宅の老朽化などの問題です。
高度経済成長期に開発された新興住宅地は2000年代に入って以降、これらの課題と向き合うことを余儀なくされています。
そこで、「コンパクトで持続可能なまちの形成」を目指す横浜市と、「様々な世代がいきいきと暮らすまち」の創造を標榜する東急電鉄が協力し「郊外住宅地の再生型まちづくり」に取り組むことが2012年4月に決まりました。
国家戦略プロジェクトの一環で平成23年に国から「環境未来都市」に選定された横浜市と、沿線住宅地の環境向上を目指す東急電鉄の思惑がちょうど合致したということです。両者の提携による効果としては、住民が横浜市の施策や支援制度の情報が得やすくなることや、住まいから生活に関わる総合的な相談が用意になることが期待されます。
このプロジェクトの趣旨は次のようになっています。
横浜市と東京急行電鉄株式会社は、共同で次世代に引き継ぐ「郊外住宅地の再生型まちづくり」の取組に着手することで合意し、「次世代郊外まちづくり」の推進に関する協定を締結しました。(横浜市 2012)
このプロジェクトは、具体的には、医療、介護、子育てなどの環境を拡充し、暮らしやコミュニティを支えること、老朽化団地や戸建て住宅地の再生などが盛り込まれました。
この計画の第1号モデル地区では、「スマートコミュニティ推進部会」を設置し、モデル地区内の住宅への家庭内エネルギー管理システムの導入や将来的な地産地消エネルギーシステムの構築が進められています。
おわりに
前回の記事から見てきたように、横浜市と東急電鉄の間では横浜市北部の土地の開発、発展に関して効果的なパートナーシップが形成されています。
鉄道沿線のインフラ整備に関して東急電鉄側が一定の協力を行ったことは、沿線地域のスムーズな開発の進行に貢献したといえます。また「郊外住宅地の再生型まちづくり」計画では高齢化問題に直面するこれからの団地がこの問題に適切に立ち向かっていくための一つのあるべき姿が示されています。
都市計画をテーマに卒論を書くときは、対象地域の開発の歴史を辿るだけでなく、「自治体と民間企業の連携」「人口の移動」「地域福祉の充実化」などのサブテーマを設定することで、考察が行いやすくなるでしょう。
おすすめ参考文献
田村明、1983年『都市ヨコハマをつくる−実践的まちづくり手法−』中央公論新社
東秀紀・橘裕子・風見正三・村上暁信、2001年『「明日の田園都市」への誘い_ハワードの構想に発したその歴史と未来』彰国社
E.ハワード(著)・山形浩生(訳)、2016年『新訳 明日の田園都市』鹿島出版会
横浜市、2012年「「郊外住宅地の再生型まちづくり」の取組に着手します~環境未来都市 超高齢化社会に対応する取組スタート!~」